2022年度Aセメスター木曜5限
最近のビジネスの世界では、“企業が顧客に売りたいものを売る”のではなく、“顧客が何を求めているか”を商品・サービスの起点にすべきという、顧客志向が重視されています。一方で、人が“自分が何を欲しいか”を明示できることは難しく、本当に顧客が求めているものを理解するのは難しいのが現状です。
自動車会社フォード・モーターの創設者であるヘンリー・フォードの言葉に、 “もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう。”というものがあります。人は形にして見せてもらうことで、初めて自分は何が欲しかったのか、わかるものなのです。
デジタル化が進んだ結果、目まぐるしく新商品・サービスが生まれ、私たちはいま“正解がない不確実な世の中”に生きています。近年は大企業だからといって、必ずヒット商品・サービスが生まれるわけではありません。特に、実際にやってみないと成功するかわからない新規事業については、アクセンチュアの調査によると、立ち上げに成功したと躊躇なく言える経営幹部はわずか6%にとどまっています。
しかし、逆に、形にして見せてもらうと、それがなかった世界に二度と戻れない、という商品・サービスが生まれていることも事実です。例えば、皆さんが使用しているLINE。スマートフォン普及以前は、メールで連絡することが当たり前。メールは件名があり、その上で本文を打ちます。スタンプなんてありません。そのため今のLINEのような気軽なやり取りは出来ませんでした。また当時の通話は電話が一般的で、電話料金を気にしながら話していましたが、今はLINEで無料通話ができます。LINEがなかった時代にはもう戻れないと、多くの人が感じるでしょう。
それでは、顧客志向の商品・サービスを生み出すには、どのようなことが必要なのでしょうか?私たちは、“こうありたい”というビジョンを描き切り、そのビジョンをもとに、投資規模が小さいトライアル商品・サービスを素早く市場に投入し、市場の反応をタイムリーに商品・サービスに反映する、という一連の流れが重要だと考えています。
私たちアクセンチュアは、世界有数の総合コンサルティング企業として、世界中の様々な企業と一緒に、新しいサービスをビジネスとして実現させてきました。その経験と実績を活かし、本授業では、初学者を対象に、アクセンチュアの現役コンサルタントと共に、まずは調査編として、“こうありたい”というビジョンを描き切るプロセスを身に付けることを目的としています。
具体的には、デザインシンキングという手法で、“こうありたい”ビジョンを考え、実際に同世代にリサーチすることで、同世代向けの市場やニーズを分析・深掘りし、ソリューション・アイディエーションの頭出しまで行います。そして最終発表では、ストーリーテリング(ビジネスを「物語」を通して表現する手法)を活用して、実際の企業の方へプレゼンします。
※本講義のプログラムは、今セメスターから履修できるようプログラムを構成しています。デザインシンキング、ストーリーテリング等の手法を学びながら進めますので、初学者の方も安心して履修してください。
キーワード
コンサルティング、クリティカルシンキング、デザインシンキング、ストーリーテリング、プレゼンテーション、リサーチ
第1回(10/6) ガイダンス
・講義(忍びよる価値)
・授業に関する説明(授業の目的と目標、進め方、スケジュール、評価方法)
■ インサイトの掘り下げ
第2回(10/13) ”こうありたい ”を考える
・デザインシンキング講義・演習
第3回(10/20) インサイトの掘り下げ①
・リサーチ講義・設計
第4回(10/27) インサイトの掘り下げ②
・リサーチの実施
第5回(11/3) リサーチ結果まとめ・アクセンチュアACN社員レビュー
第6回(11/10) インサイトの掘り下げ③
・追加リサーチ設計
第7回(11/24) インサイトの掘り下げ④
・追加リサーチの実施
第8回(12/1) 追加リサーチ結果まとめ
第9回(12/8) インサイト発表
・アクセンチュアACNエキスパートを招いての発表会
■ インサイトをもとにしたビジネスアイディエーション
第10回(12/15) アイディエーション①
・アイディエーション講義・演習
第11回(12/22) アイディエーション②
・アイディエーション講義・演習
■ 最終発表
第12回(1/5) 発表準備
・プレゼンテーション講義
・最終発表準備
第13回(1/12) 最終発表
・外部ゲストを招いての最終発表会
◎振り返りフォーム(70%)
…各回講義後にオンラインで提出。講義の中で学んだ知識を振り返り、疑問点や感想も書いていただきます。
◎発表(30%)
…第13回授業で発表を行います。教員(10%)、アクセンチュア社員(10%)、受講者(10%)で評価を行います。
評価基準は以下の通りです。
評価基準
準備への貢献(各チーム担当のアクセンチュア社員が評価)
・チームワークへの貢献:授業の中でチームメンバと交流し、チームワークの向上に寄与する。
また、チームにとって有益と思える内容は、積極的にフィードバックを行うことができる。
・アイデア出しへの貢献:多様な視点を持って活動に参画し、自分のアイデアを話すことができる。
また他者からの意見を取り込むことで、アイデアを進化させることができる。
・アウトプットへの貢献:グループワークに順応するとともに、
新たな、または不慣れなタスクにも積極的に取り組むことができる。
また、与えられたパートのタスクについて期日を守ってこなすことができる。
発表への貢献(教員、アクセンチュア社員、受講者が評価)
・内容のわかりやすさ:ストーリーテリングの手法で、伝えたいことを簡潔にわかりやすく話すことができる。
・話し方の適切さ:聞き手を意識して、はっきりした発音で話すことができる。
また発表時間を大幅に超えないようにコントロールできる。
・質疑応答のわかりやすさ:質問者の意図を理解して、受け答えができる。
質問内容がわからない場合は、質問者に質問して内容を確認することができる。
アクセンチュア株式会社
髙橋史子
(東京大学教養学部附属教養教育高度化機構社会連携部門 特任講師)
takahashi[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp
東京大学教養教育高度化機構 社会連携部門 髙橋 史子 ([at]を@に書き換えてください)