キャリア教室1・Aセメスター
グローバル化・高度情報化・高齢化といった変化が日本を含む世界各国の社会や経済を揺さぶり、これからの時代はますます複雑で不確実性の高い時代になっていくと言われています。そのような時代だからこそ、自らのキャリアを自らで創っていくための基礎・教養を身につけてほしい。産・官・学・民、文系・理系、グローバル・ローカルといった既存の枠にとらわれずに、より豊かなキャリア観をもって多様な体験や学びに積極的に取り組んでいってほしい。そのために国内外で活躍する各界の方をゲストスピーカーに迎え、キャリアについて、これからの時代のプロフェッショナルについて、自分について語っていただくオムニバス形式の講義授業を開講します。
企業(外資系金融・コンサル、ベンチャー、メーカー、商社等)、大学・研究機関、国際機関、官公庁、法曹界などでご活躍されている、多様な経験をもった幅広い年代の方による講演を予定しています。またワークショップを通じて主体的にキャリアについて考えるセッションも設けています。各界に関心のある学生はもちろんのこと、将来のキャリアがまだ漠然としている方も是非受講ください。
企業(外資系金融・コンサル、ベンチャー、メーカー、商社等)、大学・研究機関、国際機関、官公庁、法曹界などでご活躍されている、多様な経験をもった幅広い年代の方による講演を予定しています。
2017年 9月29日(金)5限 | 第1回 ガイダンス: なぜキャリア教室か・キャリアWS1(ジョブスタ) |
---|---|
2017年 10月06日(金)5限 | 第2回: 小川 亮(国際協力機構(JICA)民間連携事業部企画役) |
2017年 10月13日(金)5限 | 第3回: 安部 敏樹(株式会社Ridilover/一般社団法人リディラバ 代表理事) |
2017年10月20日(金)5限 | 第4回: 吉川 貴啓(住友商事株式会社) |
2017年10月27日(金)5限 | 第5回: 原 直樹(日蓮宗僧侶) |
2017年11月10日(金)5限 | 第6回: 神田 哲也(公正取引委員会 事務総局審査局審査企画官) |
2017年11月14日(火)5限 | 第7回: キャリアWS2(本郷キャリアサポート室) |
2017年12月 1日(金)5限 | 第8回: 井﨑 武士(エヌビディア合同会社 エンタープライズ事業部 事業部長) |
2017年12月8日(金)5限 | 第9回: 中村 優希(東京大学KOMEX 自然科学教育高度化部門 特任助教) |
2017年12月15日(金)5限 | 第10回: 小林 傳司(大阪大学・理事・科学哲学) |
2017年12月22日(金)5限 | 第11回: ノウシアイネン・ヨハンナ(楽天株式会社 通信&メディアカンパニー) |
2017年12月26日(火)5限 | 第12回: 小出 彩(帝人株式会社 ヘルスケア新事業部門) |
2017年01月05日(金)5限 | 第13回 全体総括: ワークショップ・自分のキャリアは、自分で創る。 |
未来に活躍できる「ジョブ」を考える
変化の激しい社会の中で、皆さんは将来どんな仕事をしているでしょうか?
未来の職業を考える「ジョブスタ」ゲームでは、自分では気づいていない「なりたい職業」や未来に活躍できそうな仕事について考えます。
小川 亮
国際協力機構 民間連携事業部
本日はJICA(独立行政法人 国際協力機構)の小川 亮様にお越しいただき、自身のキャリアについて語って頂きました。JICAは日本のODA(政府開発援助)を一元的に担う組織でありあり、発展途上国への援助を行っている行政法人です。本日の講演では、小川さんの現在のお仕事から、JICAの前身であるJBIC(国際協力銀行)を就職先として選んだ、大学時代の進路選択までを振り返ってご講演いただきました。
小川さんは現在、民間企業による発展途上国理学系研究科への融資を促進することを仕事としております。現代では、先進国から発展途上国に流れていくお金は、いわゆる「支援」ではなく先進国の企業から途上国の企業に対する「投資」による援助が大きな部分を占めており、またそういった投資をさらに増やしていくことが重要とされているようです。その促進こそが現在の小川さんの仕事であり、これまでに行ってきたプロジェクトについてご説明頂きました。どの仕事も日本に住む学生が普段意識することのないような仕事であり、それぞれの仕事の目的を分かりやすく説明頂きました。
また、以前はインドネシアに対する支援を指揮する仕事をしていたとのことで、その際の職務についてもご紹介頂きました。そのうちの一つがインドネシアの首都、ジャカルタに地下鉄に関するプロジェクトです。ジャカルタは車が道路の面積よりも多く、混雑の激しい交通事情が課題となっています。この解決のために必要な地下鉄を開通するには、2000億円もの費用がかかり、インドネシア政府には用意するのが難しいレベルの予算が必要です。この費用を日本として融資し、地下鉄を作ることが当時の小川さんの仕事だったそうです。これだけの大規模なプロジェクトですが、当時の小川さんは30歳になったころであり、JICAという環境が若い人材に対しても大きなプロジェクトを与える環境であることを紹介しています。
講演の後半では、なぜ小川さんが国際協力をJICAで行う道を選ぶこととなったかが話題となりました。中学生の頃に読んだ記事が今の道を志すきっかけの一つだそうです。内戦によって5000人もの方が亡くなった事実が、新聞の国際面の、わずかな小さい面積の記事にて伝えられていたことに強いショックを受けたこと、それが途上国を支援する職業を志望する始まりとなったそうです。とはいえ当時はインターネットもなく、途上国の問題について学ぶにもどの学校に行けばいいか分からず、取り敢えず東大なら勉強できるだろうと東大を選んだのだとか。大学を出て働く先を選ぶ時、当初はマスメディアに就職し、途上国の貧困を報道したかったそうですが、就職を通して「お金になるもの・利益が出る記事」が必要なマスメディアは自身が行いたいことを合致しているとは思えず、就職の希望を変更することにいたったのだとか。在学中のバックパッカーとして旅していた経験から発展途上国のインフラに関心を持ち、今のJICAでの仕事を選んだそうです。
最後に行われた質疑応答では、JICAでの仕事の詳細や、海外駐在も多いJICA職員としてのワークライフバランスが話題となりました。また、将来を考えるときには、生まれてからの自分の人生を振り返り、「自分がどんな時に楽しいと感じたか、どういう役割を果たした時に楽しいと感じたか」を意識すると良い、とアドバイスを頂きました。 学生の日常生活では意識することの少ない、JICAという組織での仕事について学んだことは、将来に世界で活躍することが期待される学生達にとって貴重な経験となったようでした。またその進路決定における考え方は、これからのキャリアを考える良い参考となりました。この度はご講演ありがとうございました。
(ティーチングアシスタント 理学系研究科物理学専攻 M2)
安部 敏樹
一般社団法人リディラバ 代表理事
1987年京都府生まれ。2007年東京大学入学。大学在学中の2009年に社会課題の現場に学びに行ける旅行を主催する『リディラバ』を設立、2013年以降事業化。観光庁長官賞、KDDI∞ラボ最優秀賞、総務省起業家甲子園日本一など受賞歴多数。現在は、東京大学で、大学1~2年生向けの「社会起業」をテーマとした講義を持つ。また、東京大学大学院博士課程(専門領域は複雑系)に所属し、研究活動にも従事している。著作に「日本につけるクスリ」「いつかリーダーになる君たちへ」
今回は、一般社団法人リディラバ代表理事の安部敏樹さんにお越しいただき、本学-教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門の堀まゆみ特任助教と対談をしていただきました。
安部さんは、「社会の無関心を打破する」をスローガンに掲げ、東京大学在学中から社会課題をテーマにした「スタディツアー」を運営されています。安部さん曰く、社会問題が解決されるためには、多くの人が社会問題に当事者意識を持って関わることが重要だそうです。さらに、社会問題が解決されないのは、「現場の壁」「情報の壁」「関心の壁」があると安部さんは言います。
「現場の壁」とは、社会課題に関わる手段がないこと。これに対して、安部さんが代表理事を務めていらっしゃるリディラバではスタディツアーという社会課題を題材にしたツアーを運営しているそうです。また、そもそも社会課題に関する情報がない「情報の壁」を打破するため、社会課題の情報を発信するメディアを作る活動もしているそうです。 3つ目の「関心の壁」は、そもそも社会課題に興味のない人が多いこと。そこで、教育の中でスタディツアーを利用してもらうことで、社会課題に興味を持つ人を増やそうと試みているそうです。
学生時代について、安部さんは、高校時代にはダメな高校生だったけれど、友人たちの支えのおかげで東京大学に入ったことをお話くださいました。また、大学在学中には海賊王に憧れ、オーストラリアでマグロを手で捕まえた経験もあるそうです。文科二類に入学しますが、その後理転し、複雑系物理学を学ばれていたと言います。
進学選択にを控えた受講生に向けて、肩書きを求めて進路選択をするのではなく、本当に一緒にいて価値のある人やテーマを基準に、進路選択をすべきだとの話をいただきました。また、社会には「社会を塗り替える仕事」と「社会を保守点検する仕事」があり、どちらになりたいかで進路選択は変わってくるというアドバイスをいただきました。
受講生からの質問では、現在事業と研究の両立はできているのかとの鋭い質問も出ました。安部さんは、自身が研究対象としての人間の行動に興味があること、リディラバの事業を通して研究にも生かす予定だとお答えいただきました。また、社会問題とは何かとの質問を受け、社会問題は理想状態と現状のギャップである、一般的に社会問題と言われるものは、そもそも理想状態が設定されていないものが多いと指摘しました。他にも、優秀な人材とは?という質問には、「そもそも論で話をできる人」だと話し、さらに考えを発信することが重要だと話されました。
最後に、安部さんから受講生に「他人に自分の未来への期待値調整のためのレバーを渡すな」という熱いメッセージをいただき、受講生らも考えさせられたようでした。安部さんのようにマクロなレイヤーで考え、実際に行動に移す人材が、この講義から出てくることを期待したいと思います。ご講演ありがとうございました。
(TA 総合文化研究科 修士課程2年)
吉川 貴啓
住友商事株式会社
2009年東京大学経済学部経済学科卒業。大学時代は運動会男子ラクロス部に所属。 同年住友商事株式会社に入社。入社後4年間は人事部、人事厚生部に所属し、海外駐在員の処遇に関する制度の企画立案・運用を担当。 その後2013年に鉄鋼原料部に異動し、南アフリカ産鉄鉱石の輸入業務を担当。2年間の南アフリカ・ヨハネスブルグでの駐在を経て、現在はマンガン鉱石や合金鉄のトレードビジネスを担当している。
今回は、住友商事の吉川貴啓さんをお招きしご講演いただきました。総合商社はその業界の華やかなイメージやグローバルな仕事内容で、今も学生の中で人気の就職志望先の1つです。吉川さんのお話を楽しみにしていた学生も多かったかと思います。今回はラーメンから航空機までと言われるほど多岐に渡る商材を扱い、グローバルに展開している総合商社で活躍されている吉川さんに、人生における重要な「選択」についてお話を伺いました。
吉川さんは本学経済学部のご卒業で、大学時代にはラクロス部に在籍されていたそうです。住友商事入社後は人事部に所属し、海外駐在員の方々のサポート業務等を担当した後に、資源分野の営業職に異動。また、南アフリカに駐在されたていたご経験もあるとのことでした。
吉川さんはご自身の人生の中での進路選択として、「東京大学の受験」「ラクロス部への入部」「留年」「住友商事への入社」の4点を挙げられました。
大学受験では、どの分野に進むのかで大変悩んでいたそうですが、最終的には受験までの期間や、自身の得意科目などを考慮し、東京大学文科Ⅱ類を受験、現役で合格されたとのことでした。 入学後は「東大から日本へ貫く感動を巻き起こす集団でありたい」という理念に惹かれ、ラクロス部への入部を決断。ただ、実際にやってみると想像以上にきつく、危険なスポーツだったそうですが、同期、先輩、後輩という素晴らしい仲間にも恵まれ、結果として四年間ラクロスに真剣に取り組まれたそうです。部活を悔いなくやりたい、また部活を引退後ラクロス部のコーチをやることで、何らかの形でラクロス部へ恩返しがしたい、という気持ちから留年を決意されたとのことでした。
その後就職活動においては、失敗や焦りを経験しながらもご縁のあった住友商事に入社されました。
吉川さんはこれまでのこれら「選択」を振り返って、重要なポイントが3つあるとお話になりました。それは「迷ったら直感を信じること」、「自分の選択に対しては責任を持つこと」、「周囲への感謝の気持ちを忘れないこと」の3点です。また吉川さんは、どの選択においても「ともに過ごす人」を重視する(「なりたい人がいる環境で頑張りたい」)という軸はブレずに選択されてきたと言います。 そんな吉川さんのお話をお聞きし、「選択に対して責任を持つこと」の重要性を感じました。多くの場合、選択する時点で十分な情報が得られているわけではありません。選択をした後で、後悔をすることも多いと思います。しかし、自身のした選択に対して正しく責任を持ち、やり切ることで後悔のないキャリア選択が可能になるのだと思います。
質疑応答の時間では、学生の皆さんから、総合商社の働き方、ライフスタイルについての質問が多く出ました。お話を聞いて、具体的に自分ごととして捉えられた学生が多かったのではないでしょうか。 吉川さん、ご講演ありがとうございました。
(ティーチングアシスタント 総合文化研究科 修士課程2年)
原 直樹
日蓮宗僧侶
2008年3月 東京大学教養学部広域科学科卒業、2010年3月 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修了、学術修士。同年よりシステムエンジニア職に就き、開発の一部を海外の企業に外注する国際調達(IP: International Procurement)を行うIP開発部門にて勤務。その後僧侶の道を志して退職し、立正大学仏教学部宗学科に編入。日蓮宗所定の修行を積み、日蓮宗教師資格を取得。2013年より千葉県内の寺院で副住職の任に就き、日蓮宗僧侶として法務を行っている。
本日お越しいただいたのは、東大院→SE→僧侶という異色の経歴をお持ちの原直樹さんです。ご自身のキャリアに絡めて、学生時代からどのように考え行動したかとその反省点について、また就職と転職、僧侶という仕事についても話してくださいました。
初めに、学生時代の進路選択について。東大の前期課程は基礎科目が多く、進学のために点数の取りやすい科目を選択する傾向にあったため、進学振り分けではご自身の知的好奇心を満たせるようなところを選ぼうと考えたとのお話でした。最終的には「高度な専門性と広い視野の両立」を掲げる広域科学科(現在の学際科学科)の環境分析化学研究室を選ばれました。事前のフィールドワーク実習で雰囲気が良かったこと、化学が最も好きな科目だったことなどを理由に挙げられました。
次は、学生時代に学業以外に何をしたかについてでした。原さんは「自信のない人だった」「周囲の人と勉強だけで勝負するのは厳しそうなので、勉強以外のところも磨こうと思った」とのことで、一年に一つずつご自身の欠点に向き合う決断をされました。視野を広げるために入った障がい者介助サークルでは尊敬できる同級生に出会うとともに人々の価値観の違いを実感し、人見知り改善のために始めたホテルのウェイターでは忙しい中でも周囲に気を配ることを学び、英語のスキルアップのために行った外国人との合同ボランティアでは非言語コミュニケーションの重要性に気づき、発想力を鍛えるために参加した学生環境ビジネスコンテストでは他人とチームを組む際の相互理解の大切さを知ったとのお話でした。全体として、必ずしも求めるスキルが身についたわけではなくとも経験が自信につながったと語り「自信がないときこそ、自分に向き合おう」と仰いました。
三つ目は就職のお話で、三つの原因から長期化したとの反省を語ってくださいました。まずは自身の欠点に向き合ったはいいが、強みについては分析をあまりしなかったためアイデンティティを見失っていたこと。次に自分のことも会社のこともよく分かっておらず、就職活動の目的と手段が不明瞭であったこと。最後にそうした厳しい状況の中で誰にも相談せず、アドバイスを受けなかったこと。最終的にはシステムエンジニアの職に就かれたのですが、この経験を振り返り「自分を見失ったときこそ、閉じ籠らず他の人に相談しよう」と学生へアドバイスをなさいました。
四つ目のお話は転職についてでした。就職して一年ほど経ったころ体調を崩し、それがキャリアを見直すきっかけとなったそうです。東日本大震災とも重なり、後でやろうと思ったことはその時にはもうできないかもしれない、後悔しない人生を送ろうと考えたと語られました。学生に対しては、もし転職するならばきっとそれは何かを改善しようとしてのことなので、しっかりと改善すべきものの優先順位をつけること、また自分から行動を起こすための地力をつけておくことを勧められました。「将来を不安に思うからこそ、今を大事に、何をすべきかを考えよう」とのお言葉でした。
最後は僧侶という仕事についてのお話でした。人々の相談相手としての側面があるが、マニュアルがなくフィードバックを受ける機会も少ないため考え方が固まりがちで、色々な分野の友人がいるとよいと話されました。仕事をする際の学生へのアドバイスとしては、自身の強みは活用すること、自分に何ができるかを理解して仕事にプライドを持って行うことを挙げられました。
講義後の質疑応答では、地力を高めるためにどうするのが良いかという質問が寄せられました。原さんは「困難を乗り越えること」と答えられ、まずは自身の越えるべき課題が何かを認識すること、それが分からないなら何か思いついたことからやってみようと仰いました。また、自身の課題を見つけて一年に一つずつ向き合っていこうという発想の出所について聞かれると、それは劣等感から来るものだと回答され、「劣等感それ自体は悪ではなく、劣等感をもとに何もしないことが悪」と投げかけました。東京大学に入って周囲に圧倒される人もいると聞きますが、そのような人たちには大いに役立つ考え方だと感じました。また、何が起こるかどんどん分からなくなると言われる世の中にあって、地力をつけて様々な状況に対処できるようにすることはより柔軟でよい生き方に繋がるでしょう。お話しいただきありがとうございました。
(ティーチングアシスタント・総合文化研究科 修士課程2年)
神田 哲也
公正取引委員会 事務総局審査局審査企画官
2000年東京大学法学部第Ⅱ類(公法コース)卒業、2006年米国ミシガン大学公共政策大学院修了。2000年4月公正取引委員会事務総局に入局後、競争政策、中小企業政策に関する二度の法改正やガイドラインの作成を担った。EU競争総局において国際カルテル事件の審査等に従事したほか、OECDでの勤務経験もあり。 2013年から二年間は人事課にて新卒学生も含めた採用や任用(人事異動等)のほか、働き方改革などに従事、2016年からは官房総務課にて組織としての方針策定や国会業務を担当し、一貫して組織の基盤を作るべく尽力。本年7月に現職に就任。
本日は公正取引委員会にお勤めの神田哲也様にお越しいただき、現役の東大生たちに向けて、自身の体験も踏まえた上でキャリアについてご講演頂きました。
公正取引委員会は独占禁止法の運用のための行政組織であり、いわゆる、「カルテル」に代表されるような、法律に禁止されるような独占行為を取り締まるほか、競争に関する政策立案なども行う組織です。 今回の講座は様々な学生が参加していることから、まずは「競争とは何か?」というところから講演が始まり、経済における競争の重要性、一方でなぜ独占が問題となるのか?といったところをご説明頂きました。その上で、なぜ企業が競争の戦略を必要とするのか、他社と異なる商品を提供する企業がなぜ儲かるのかについてご説明いただいた後、私達が将来、社会に出て働き初めた際にも同様の発想が重要だとのお話しがありました。すなわち、基礎的な能力は有した上で、他人と異なる能力を発揮することを意識していくべきことなどのご指摘がありました。
続いて、なぜ神田様が自身の就職先として公正取引委員会を選んだのか?小学生の頃の、自身が地 方出身であることのエピソードの踏まえながら、いかにして自身のキャリアを決めたのかお話し頂きました。地方で育つなかで、コミュニティに育てられているとの意識や新たな場所への好奇心があったこと、ベルリンの壁の崩壊や、ソ連崩壊といった国際情勢の変化を見ながら育ったこと・・・昔は外交官になりたかったとのことですが、「外交とは何か?」と考えた時、「歴史の終わり」と言われた情勢下で、外交に占める経済の割合が大きいことに気が付き、それがきっかけで経済にも興味を持ったようです。民間の金融機関などで働くことも考えた上で、特定の会社のためではなく「国家公務員として、社会や国民の為に働くこと」、「誰か特定の人のためではなく、“競争”という筋の通った価値に対する仕事をしたいと感じたこと」などから、最終的に公正取引委員会で働くことを目指したようです。
神田様は以前、公正取引委員会の人事担当者として、新卒の採用にも携わっていたこともあり、その経験や自身のキャリアを含めて、どのように将来の仕事を決めるべきかアドバイスを頂きました。その中で何度も力強くお話頂いたのは、「何が自分にとって大切か?」ということを明確にすることと、それに加え、「何が出来るか?」だけではなく「何をするのか?」、「何のために行うのか?」ということを明確にすることが大切であるということでした。前者については、人生には仕事のみならず、家族や、あるいは余暇や趣味といった要素があり、何が自分にとって大切であるのか?自身にとって望ましい配分はどのような物か?といったことを理解しておくことが就職活動を行う前に大切であるということを、自身が面接官であった経験からお話頂きました。また、後者に関しては、「自分は○○が出来る~」といったことだけでなく、「自分は何をしたいと考えているのか?(Do what)」、「何のために自分の能力を用いるのか?(Do for what?)」といったことを就職活動などの際には伝えることが大切であることをお話頂きました。また、その上で社会人として、「自分の能力でどこまでのことが出来るのか?」「どのように自分のみならず、周りのモチベーションを高めていけるか?」といったことの重要性を紹介されました。さらに、一定の困難を乗り越えてそれを客観的に振り返ることで身につく健全な自己認識(self-esteem)が、モチベーションを維持して、よい仕事をしていくために欠かせないとのお考えを披露頂きました。
後半には、社会人としての仕事に必要なこととして、「全ての仕事に主体性をもって取り組むこと」「すこしでも付加価値をつけた仕事をすること」「5年、10年といった未来を見据えて仕事をすること」の大切さをお話頂きました。また、自身のリーダーシップも大切ですが、周りのリーダーシップを取る人に積極的にフォロワーとして支えていく手伝っていく姿勢の大切さもお話頂きました。神田様は現在、公正取引委員会として不正の調査を行う際に、機械学習といった先端技術を活かした調査を行う方法を検討しているそうです。ところが、あまりに従来の調査手法とかけ離れているため、有用性等について理解を得にくい一方、参加してくれる人たちのありがたさや、そういった人を増やしていく働きかけの必要性を紹介してくれました。
講演の最後には、学生からの質疑応答があり、公正取引委員会でのライフワークバランスや、その仕事の内容、あるいはキャリアの考え方といった質問に丁寧にお答え頂きました。講演の様子を見ていると、自身の未来・キャリアを考えるにあたり、良い経験となった学生も多いようでした。神田様、この度はご講演ありがとうございました。
(ティーチングアシスタント 理学系研究科物理学専攻 M2)
井﨑 武士
エヌビディア合同会社 エンタープライズ事業部 事業部長
1997年東京大学工学部材料学科卒業後、1999年東京大学大学院工学系研究科金属工学専攻修了。1999年日本テキサス・インスツルメンツ株式会社に入社。DVDアプリケーションプロセッサ、携帯電話用カメラ映像、画像信号処理プロセッサ、DSPアプリケーションの開発を経て、デジタル製品マーケティング部を統括。エンターテイメント製品からインダストリアル製品にいたる幅広い領域のビジネス開発に従事。2015年NVIDIAに入社し、深層学習(ディープラーニング) のビジネス開発責任者を経て、現在エンタープライズ事業部を統括。
中村 優希
東京大学教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門 特任助教
中学1年で渡米し,中学・高校時代を南カリフォルニア州のアーバインで過ごす.2006年12月にUCバークレー校の化学科をhonors studentとして3年半で卒業.東京大学大学院理学系研究科に進学し,透過型電子顕微鏡を用いた単一有機分子の構造解析や炭素物質フラーレンの化学修飾法の開発,ならびに触媒反応系の開発に従事し,2012年3月に博士課程を修了.その後,博士研究員としてハーバード大学へ留学し,天然物ハリコンドリン類の新規合成ルートの開発に取り組む. 帰国後は,東京大学教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門の特任助教(現職)に着任し,PEAKプログラムの化学実習や有機化学ならびに学部1・2年生向けの全学自由ゼミナール等をはじめとした授業や有機化学分野の研究を行っている.
本日お越しいただいたのは、海外で長く過ごした経験をお持ちで、現在は教養教育高度化機構にてPEAKプログラムの化学教育や有機化学分野の研究を行っていらっしゃる中村優希さんです。進路選択でどのように考えたかを含めてご自身の経歴と、海外留学によって得たもの、そしてキャリアについてのお考えをお話してくださいました。
神奈川県横浜市出身の中村さんは、小学2年生をニューヨークで、中学・高校時代をカリフォルニア州のアーバインで過ごされました。UCバークレー校の化学科をご卒業後、東京大学大学院理学系研究科で博士課程まで修了され、その後はハーバード大学でポスドクとして働かれ、そこから現在の職に就かれています。
中学一年生の秋に渡米する以前は文系科目の方が得意だったのですが、渡米後は英語が分からなくても解ける数学と、電気回路や小型ロケットづくりの授業を通じて実験系に興味を持たれたそうです。化学に惹かれたのは高校時代、恩師であるMrs. Heffernan と出会って以来で、「スーツの上に白衣を着る姿に憧れた」とのことです。大学の講義を先取りできる授業で化学を受けていたところ「日本人なのにすごいね」と言われたことが、「日本人なのにってどういうこと?」と、逆に悔しくて、最終的に日本のために働こうと思った原因の一つだと振り返られました。
大学進学の際は化学を専攻したいという明確な目的があり、どこを受ければよいかもよく分からない・受かってもいつ日本に帰れるか分からないといった悩みを抱えながらも、カウンセラーと恩師の後押しでカリフォルニア大学系列を受験し、UCバークレー校へと進学されました。勉強漬けの日々を送る中で人名反応(有機化学の反応には発見者の名前が付けられる)の教科書に大量の日本人名を見て日本人化学者のすごさを感じ、当時の研究室のボスの東大講演に同行して中村栄一先生の研究室にサマーインターンの約束を取り付けるなど、精力的に活動されていました。
大学院に進むと、修士課程では研究したかった触媒反応開発ではないチームに配属されるも、博士課程では反応開発のチームに入り、短期のMIT留学を挟みつつ研究を継続、ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞を受賞されました。ハーバードでは岸義人名誉教授にかけられた “You’re not a woman scientist, but you’re a scientist. Gender should not matter with what you do in chemistry.” という言葉が印象に残っているそうです。その後、科学者としては役立つ新反応を見つけ、教育者としてはグローバル人材育成に関わり日本の化学教育を改善するという目的のもと、帰国して現職に就かれました。仕事選びでは、自身がそれを好きかという内的要因と、周囲が能力を評価してくれるかという外的要因の両方を満たしていることが理想だと仰っていましたが、まさに好きな研究と得意な英語での教育という現在のお仕事は中村さんにとって天職なのではないかと感じました。
留学については、海外と全く関わらない仕事は今や少なく、外で学んだ良いものを持ち帰ることや頑張る日本人の姿を見せることが日本のプレゼンス向上につながると勧められました。日本の常識がいかに海外では通用しないかを実感でき、また多様性の中で自身の特性を知ることができるのも利点だとのことです。ただ、留学を最大限良いものにするためには、自身の働きが他者に評価される中で、明確な目標、それも語学力を付けるなどの日本国内でも可能なものではない目標を持って臨むことが肝要だと語られました。
最後のまとめでは、キャリアは選択の積み重ねであり、選択の際に何が大切か、何が譲れない条件かを見定めることが重要だと仰いました。学生へのアドバイスとして、自分のインプットで変化をもたらすことのできる環境に身を置くこと、信頼できる人の言葉には耳を傾けるよう心がけること、留学を通して自分の特性を知ってスキルアップすること、そして考える力をつけるために普段から考える習慣をつけることを挙げられました。
質疑応答では、日本の化学教育をどう改善するかとの質問に、特に大学院では教師も学生も研究に偏りすぎているので、授業の質を上げたい、またTAを雑用係ではなくもっと教師側に近づけたいと回答されました。一方で、研究室においては教授、助教、講師などが密に連携した多層な教育がなされており、現在の日本の体制もそういう点は良いとのお考えでした。また、新しい環境に踏み出すのはリスクが大きく怖いという学生には、ある程度のリスクは避けられないのでプランをただ一つに絞らず三つほど用意しておくと良いとアドバイスされました。
講義終了後に留学に関する悩みを相談しに来た学生にも丁寧に応対されていました。留学を考えている学生には特に印象深い講義だったのではないでしょうか。中村先生、ありがとうございました。
(ティーチングアシスタント M2)
小林 傳司
大阪大学 理事・副学長(科学哲学, 科学技術社会論)
1978年 京都大学理学部卒業. 1983年 東京大学理学系研究科 単位取得満期退学. 福岡教育大学講師・助教授, 南山大学人文学部助教授・教授を経て, 2005年より大阪大学コミュニケーションデザインセンター教授, 副センター長を歴任. 2015年8月より現職. 著書に,『誰が科学技術について考えるのか コンセンサス会議という実験』(2004, 名古屋大学出版会), 『トランス・サイエンスの時代 科学技術と社会をつなぐ』(2007, NTT出版)など, また共編著多数. 今日的な教養と教養教育についてや日本の科学技術政策に関わることなど, 日本学術会議やその他様々な国の審議会で委員を歴任されている. 2017年のセンター試験・国語の第1問 評論で, 小林傳司(2002)「科学コミュニケーション」, 金森修・中島秀人編『科学論の現在』勁草書房)の一節が出題された.
ノウシアイネン・ヨハンナ
楽天株式会社 通信&メディアカンパニー
メディア事業部ソーシャルメディア事業課。フィンランド出身。ヘルシンキ大学社会学部コミュニケーション学科卒業。大学在学中に新聞社にてジャーナリストとして活躍。卒業後、早稲田大学への交換留学で来日。その後、帰国し、ヘルシンキ大学大学院コミュニケーション学科に進学し修士課程を修了。再び来日後は、人材会社を経て、2014年に楽天株式会社に入社。現在は楽天レシピのマーケティングを担当。
本日お越しいただいたのは、楽天株式会社で楽天レシピのマーケティングを担当されている、ノウシアイネン・ヨハンナさんです。フィンランド出身の方で、母国でジャーナリスト、PR&コミュニケーションの職を経て来日され、人材会社で学生向けマーケティングの仕事に従事された後、現在の職に就かれました。楽天レシピが発信する食に関するトレンドニュースメディア「デイリシャス」の立ち上げに携わり、フードコーディネーターの資格も活かして企業とのタイアップ企画などを行っていらっしゃいます。
講演では、軽い自己紹介の後、「グローバルと言語の関係」、「グローバルマインドとは」というテーマでお話しいただきました。
まずは学生に向けていくつか質問を投げかけられました。英語に自信がある学生はいるかと問われると、数人の手が挙がりました。続けて、将来は海外で働きたいと思っている学生はいるかと問われると、今度はもう少し多くの手が挙がりました。英語を母語としている人は世界人口の5%ほどで、中国語の12%、スペイン語の6%と比べれば少ないですが、外国語としての英語話者も含めれば25%に達するそうです(※)。英語は世界のリンガフランカ(共通の母語を持たない集団での意思疎通に使われる言語)であり、特にビジネスの世界では欠かせないものだとのお話でした。ヨハンナさんの勤務先である楽天でも、社内公用語を英語にするなどして、海外人材と共に働きやすい会社への変革が進んでいるとのことです。
しかし、海外で仕事をする際は現地語ができるに越したことはないと付け加えられました。言語は文化への近道であり、常識や習慣とセットになっていることが多いというのです。例えば、フィンランド語で「天井のハエになる」という言い回しは、日本語の「透明人間になる(存在感を消す)」という意味に相当しますが、フィンランド語で「透明人間になりたい」というと、日本語で「穴があったら入りたい(恥ずかしい)」という意味になり、言い回しの差でうまく伝わらないということになるようです。また、非言語コミュニケーションも言語と密接に関わっており、例えばフィンランドでは相手の話は黙って聞くのが礼儀であるのに対して、日本では相槌を打ちつつ聞くという違いがあるそうです。
語学力が大切だということで、勉強法についてのお話もありました。ヨハンナさんが日本語を学ばれたときの経験から、早い段階から恥ずかしがらずにとにかく話すこと、日常や仕事の場面で出てきた分からない単語は調べて自分で使ってみること、そして明確な目標(「将来英語圏で働きたい」よりも「5年後にロンドンのコンサルティング会社で働きたい」)を設定することが良いと仰いました。言語は使わなければ身につかず忘れやすいので使い続けることを意識し、目標があると次にすべきことが見えて動きやすいそうです。
次はグローバルマインドのお話でした。人は自己紹介の時、名前や出身地などをよく述べますが、人を構成するものは他にもあり、多層的です。それぞれの人がそれぞれの国や学校、職場などに応じた様々な文化を持っています。出生国は選べませんが、趣味や友人など選択で大きく変わるものもあり、アイデンティティは流動的に変わります。そうした色々な要素の中で、根本的な自身の軸となるものは何かを認識することが重要だと語られました。個々人の様々な強みを生かすダイバーシティ社会では、自身の性質を知っていることが大切だそうです。
また、別の文化を持つ人と接するときにはステレオタイプ(固定概念)を取り払うことが大切だと指摘されました。ステレオタイプは、類型化によって大量の情報を処理するという役立つ面もありますが、考えが狭くなり、人を不愉快にする恐れもあります。まずは自身の持つステレオタイプに気づけること、次に相手を年齢や性別をもとに判断せず、個人として接すること、そして相手の話を聞いて自分の考えと照らし合わせて理解するよう心掛けることが、ポイントだそうです。理解するにあたっては、必ずしも賛成する必要はないということも呼びかけられました。
総合すると、グローバルで活躍するには自分の軸を知り、言語を身に着け、人の話を聞いて理解する力が肝要だとのことです。そのために必要なコミュニケーションは「以心伝心」ではなく「一期一会」だという言葉で講演を締めくくられました。
質疑応答では、北欧は教育や職場などで「良い」国だという話が日本で広まっているが実際はどうなのかという質問が出ました。これに対し、学校では一般的な形式はそう変わらないものの職場では他人の年齢をあまり気にせず、上司と部下も下の名前で呼び合うなどフランクな関係があるとのお答えでした。社員がそれぞれをプロフェッショナルだと評価しあっていることの表れではないかと仰っていました。他にも、フィンランドは幸福度が高く日本では低いとされていることについてどう思うかという質問に対しては、フィンランドにも社会問題はあり自殺率も低くない、日本でそういった事実が知られていないと述べた上で、それぞれの便利な点も不便な点もよく分かるのが海外生活の良い点なのでおすすめする、というご回答でした。
実際に母国以外で働かれている方のお話は、将来海外での仕事を考えている学生には特に学ぶところが多かったのではないかと思います。ノウシアイネン・ヨハンナさん、ありがとうございました。
※100 People: A World Portrait, http://www.100people.org/statistics_100stats.php(2018年1月11日最終確認)
(ティーチングアシスタント M2)
小出 彩
帝人株式会社 ヘルスケア新事業部門
ヘルスケア新事業管理部。2004年横浜国大大学院工学府機能発現工学専攻修士課程修了、2007年東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻博士課程修了、博士(工学)。2007年4月帝人に入社、新事業開発グループにて新規研究テーマ探索、エレクトロニクス関連研究の研究支援を担当。その後学生時の専攻であるバイオマテリアル研究部署の立上げに参加したが、2010年に新規電子材料開発プロジェクトに異動し、特許戦略策定、技術営業等を担当。その後、現在の部署に異動し、ヘルスケア関連の新規事業化を支援する業務を担当している。